ホーム研究会等報告2004年度>2004年度施設見学研修報告

2004年度施設見学研修会報告

実施日 2004年8月25日(水)
見学先 滋賀県立近江学園
甲西町発達支援センター(現湖南市発達支援センター)
参加者数 32名

近江学園報告/甲西町発達支援センター報告/参加者感想


滋賀県立近江学園

   学園に到着後、片岡先生から近江学園の現状についてお話いただきました。近江学園は、6歳から18歳未満の知的障害児・者を対象とする児童福祉施設です。ところが実際には、様々な家庭の事情により、18歳以上の入所者が19名(内20歳以上が11名)となっているとのことです。8月現在の入所者の年齢は、6〜11歳が17名、12〜14歳が19名、15〜17歳が42名、18歳以上が19名となっています。
   入所者の障害程度は、最重度24名、重度24名、中度20名、軽度29名であり、中度・軽度の入所者が増加傾向にあるそうです。その原因として、児童虐待が関係している可能性があるとのことでした。
   また、夏休み等の長期休業中の短期入所利用が増加しており、平成16年度の7月だけで112件の利用件数があり、延べ日数にすると178日の利用があったとのこと。昨年度は、7,8月の夏休み中の利用が延べ日数で440日にもなったそうです(年間の延べ日数では平成15年度は1705日)。
   入所者は、家庭や家族とのつながりを大切にするために、週末や年に数回の帰省をしていますが、家庭の事情で帰省できない子どももいるとのことでした。
   学園の概要について説明していただいた後、施設の見学をさせていただきました。昼食時ということもあって、入所者のみなさんは食堂で食事をとっておられました。つい、我々見学者側が見入ってしまうような形になった場面もあったように思います。入所者の方々には、本当に申し訳ありませんでした。
   それぞれの作業場では、入所者のみなさんの作品を見せていただきました。廃材を加工した木製椅子・机、掛け時計などの木工製品や、国際美術コンクールに出品された陶芸品など、個性いっぱいの作品群に多数の参加者がカメラを向けていました。
窯業室に入る参加者木工室で話しを聞く参加者

上へ


甲西町発達支援センター

   以下、当日お話していただいた甲西町発達支援室の藤井先生、西谷先生の講演の要旨を報告させていただきます。
   甲西町発達支援センターは、甲西町立三雲小学校内に設置されています。
   発達支援センター設立の目的は、幼児期から学齢期、就労まで一貫した支援システムを構築することにあります。
   当時、保育所・幼稚園、小学校、中学校、養護学校、高等学校、就労といった場面で、それぞれの組織間の結びつきのなさが、様々な困難を子どもたちや保護者にもたらしていた現状をなんとか改善しようと、地域の障害者団体(10団体)が、支援センターの設置を求める1万3千人もの署名を集め、当時の町長に提出しました。そのような地域社会及び保護者の方々の強い支持と要望があって設立されたのが甲西町発達支援センターなのです。
   甲西町の発達支援システムは、教育・福祉・保健・就労の関係機関間の連携を行ったうえでのサービスの実施、個別のケースごとの修学前から学齢期さらに就労に至るまで、個別指導計画(IEP)・個別移行計画(ITP、就労にむけた計画)を作成し、それらの個別計画に基づいたサービスの提供を目指しています。例えば就労に関しては、甲西町の場合、220社の事業主との連携がとれており、個別移行計画に基づいて事業主と協議をすすめることで、就労に向けた支援を行っています。
   また、発達支援システムのなかで、乳幼児期から就労期に至るまでのコーディネート機能を誰が果たすのかについてですが、乳幼児期は、保健師が中心にコーディネートします。乳幼児健診に於ける発達相談に基づいて処遇検討会を開き、必要に応じて親子教室・早期療育発達相談室・ことばの教室(幼児部)・郡療育教室などの利用を支援します。
   学齢期は、学校教育指導主事・発達支援室長・特別支援教育コーディネーター・保健師がコーディネートします。乳幼児期から作成され続けている個別指導計画に基づいて、各学校での支援を中心に、巡回相談員、発達支援室長、指導主事による支援も行われ、定期的に個別の関係者調整会議がもたれるしくみになっています。場合によっては、発達支援室長が、虐待や不登校の問題に直接関わることもあります。
   学校終了後から就労期にかけては、発達支援室長と保健師が中心にコーディネートします。不登校からひきこもり、虐待等の問題を、関係諸機関のネットワークを活用しながら支援するとともに、就労に関しては、雇用支援ワーカーや障害者職業センターと連携を図りながら支援することになります。
   以上の支援システムを円滑に運営していくうえで欠かすことの出来ないのが発達支援ITネットです。甲西町内の発達支援に関わる諸機関の間にイントラネットを構築し、個々の子どもたちの個別指導計画や個別移行計画、言葉の教室等での授業内容などが、支援に関わるメンバーにはすぐに閲覧できるシステムになっています。
   今後の課題としては、個々の担当者一人ひとりが、個々の事例に対して一貫した支援を前提にしたうえで、子どもや保護者が今必要としているサービスを提供できるようにすること、コーディネート機能が発達支援システムの中心業務であることをふまえ、個々の担当者が教育、福祉、保健、就労のサービスを充分に理解したうえで、連携のとれたコーディネートをすすめること等があげられます。
   藤井先生からは、(大阪府下からの)参加者のみなさんにとって、今後の特別支援教育の実施に向けて、甲西町の発達支援システムを参考にしながら、どのような点に留意していけばいいのかついて次のような指摘をいただきました。「特別支援教育の成功のカギは、中学校と養護学校がどれだけ協力できるかにかかっている」「特別支援教育は一人の障担ががんばっても動かない。特に校長、教頭の研修と意識改革が不可欠である」等々。ページ数の関係ですべてをお伝えできないのが残念ですが、本当に熱のこもったお話をいただきました。参加者からもたくさんの質問があり、今後の特別支援教育の方向性を考えていくうえで有意義な見学会になったように思います。
西谷先生と見学している参加者熱心に藤井先生の話しを聴く参加者

上へ


参加者感想

参加していただいた方々のご意見・ご感想を一部紹介させていただきます。
時間のない中、バスの中等でお書きいただき、本当に有り難うございました。

   近江学園は以前から是非訪問してみたかったので今回実現でき大変うれしかった。TEACCHプログラムでも対応が困難な場合の実践例や学園生の実際の活動の場も見ることが出来ればと思う。
   近江学園について私は知りませんでしたが、今回見学させていただいてよかったと心から思いました。子どもたちの自立に向けて色々考え取り組まれていること、特にTEACCHプログラムがよいと判断されたら、それをすぐに実践に取り入れ、子どもたちも先生ものびのびされていることが実感できましたし、苦手なことを避け、得意なことをのばすという方針がとても効果をあげているように思えました。木工などの作品のかわいらしさ、すばらしさは子どもたちの制作の喜びを伝えてくれました。「この子らを世の光に」の実現に向けてがんばっていこうと思います。
   甲西町の発達支援システム、三雲小学校の実践の話を聞いて、自分が勉強できていないなあと実感しました。今勤務している学校で新たに特別支援教育にとりくむには校内の体制がまだ出来ていないということが、一番先に頭に浮かびました。しかし、今日のお話を聞いて、まずLDやADHDなどの子どもが、現在の状態でうまくいっているのか、困っていることはないか調べてみること等、出来ることから取り組み、どういうことを子どもたちに返せるかを考えていかなければいけないと思いました。今それぞれの学校で、出来ることから一歩一歩取り組んでいこうと思います。
   近江学園の見学は学生の頃から願っていましたので、とてもうれしかったです。今も糸賀先生の精神が引き継がれ、しかも現実的に前進されていることを感じてうれしかったです。施設が古くなってきているので計画通り早く新築、改築できるといいなあと思います。片岡さんが園児の話をされているときの話され方から、園児の人格をいかに大切にされているかが伺えてうれしかったです。TEACCHプログラムについて、これまでいろんな思いがありましたが、片岡さんの話を伺って、もう少しつっこんで学習してみようかと考えています。
   甲西町の実践はすごいなあと思います。イントラネットの活用はびっくりしました。いろいろ学んだ事を自校でどれだけ生かせるか頭の痛いことですが、一歩でも何か出来ればと考えています。
   近江学園と糸賀先生の名前だけは知っていましたが、実際に施設を見せてい ただき、また職員の方にお話を聞かせていただいて、教育の原点を新たに学んだような気がしました。また、子どもたちの陶芸作品や木工作品を見せていただいて、子どもたちの感性に驚きました。一つ一つが個性的で素晴らしい作品でした。
   発達支援センターでは藤井先生のお話、とても勉強になりました。甲西町のシステムをもって帰るのではなく、どういうことが子どもたちに返せるのか考えて欲しいという先生の言葉が印象的でした。
   大阪府の他市の先生方とお話もすることが出来てよかったです。他市の特 別支援教育の取り組みの情報を得ることが出来ました。大変有意義な研修で、時間の過ぎるのを忘れました。近江学園の次長さんから、丁寧な説明をしていただき、また施設見学の機会を得られたことに感謝します。
   甲西町発達支援センターも、今後の特別支援教育を考える上で、非常に参考になりました。藤井室長のお話はストレートで、「目の前の子どもをどうするかということを養護教育の担当者よりむしろ、それぞれの行政なり、教育関係者なりが責任をもって進めていくべきだ」ということが、よく理解できました。また、西谷先生の説明もよくわかりました。この施設見学研修に参加できて本当によかったです。近江学園のお話を伺って、いろいろと明確な指針をいただけたと思います。構造化と生徒本人の力をフルに発揮できる工夫をしたく思いました。
   甲西町発達支援センターのお話では、小さな単位で連絡網を作り上げる大 切さも感じました。3〜4校の中学校区内で試してみるのもいいかもしれま せん。今ある社会資源をまず使いこなせることが大切なようですね。
   余談になりますが、府養研で府立養護の先生(高等部)と市立小・中学校の養担とで情報交換できる(進路や教育課程の内容相談)研修があればいいなと思います。市単位でやったほうがいいのかもしれませんが、高等部の先生にいろいろお話を伺いたいです。
   近江学園では、施設の見学だけでなく、実際の関わりによっておこる、理想と現実のギャップに考えさせられるとともに、具体的な今後の課題等についてわかりやすくお話して下さってよかったです。入所施設は解体の方向にあって、地域へと進んでいますが、施設から出られない人がいる現状の中で、なかなか思うようには行かないかなと感じています。
   限られた時間でしたので、ゆっくり見学できなかったのが残念でしたが、広い敷地、緑の多い恵まれた環境の近江学園に、まずびっくりしました。学園紹介の話の中で、軽度の子どもたちの占める割合が増加している原因の一つに虐待の問題が相当数あると伺い、ショックでした。お話いただいた、支援のポイントは、とても参考になり具体的な手段が大事というのを改めて感じました。と同時に職場に戻って、地域でどんな支援が出来るかを考えるヒントになり、大変よかったです。
   このような遠方の見学となると夏休み等の休業の時期でないと職場を離れるのが難しいので、なかなか来させてもらうことが出来ません。このような計画の研修はとても有り難いと思いました。近江学園についてですが、この学園の存在を耳にはしていても、ほとんど知らないに近かったので今回見学させてもらって少しでも知ることが出来ました。子どもを大切にするという理念と、自立をうながす具体的な取り組みとが伺えました。学園の歴史の説明の中に、びわこ学園創設に関するお話がありました。機会があればそちらの方も見学研修させていただきたいと思いました。
   障害児・者への取り組みのルーツ的存在である近江学園を訪問でき、とてもありがたく、感謝でした。また、近年の障害児教育分野で非常に話題になっている甲西町の取り組みの実際の場所でお話しを伺うことができ、これまで、いろいろなところで語られてきていたことが私の中でイメージとしてもさらに奥深いものとして理解できました。このような研修の機会を企画された関係者の意図は素晴らしいと考えました。講師の話だけではなかなか理解しがたいことを空間、時間、人が加わって奥深い理解になったと考えます。教師にとって、たいへんよい企画だと思いました。各現場での快い受け入れも、準備を含め多大な労苦があったと思います。感謝です。

上へ

ホーム研究会等報告2004年度>2004年度施設見学研修報告